富山県外の人が富山に来て、知らずに立ち寄ってド肝を抜かれるのがあの「大喜」の富山ブラックだ。ラーメンと言えば、札幌、仙台、東京、博多、熊本などが有名で、タイプも味噌、しょうゆ、とんこつ、塩にその混合タイプなど、全国的には百花繚乱の時代で、どれもその道を極めたものはそれぞれに絶品であるが、富山ブラックはそのどれにもあてはまらない。
一見、これでもかと乗せてあるチャーシューに驚かさせるのだが、次にすぐ目を奪われるのが、真っ黒なスープだ。なんだかとてもイヤーな予感が漂う。つまり、とても体に悪そうな色なのだ。こいくちしょうゆのそのままの色と言っていい。そんな色のスープが大きな器に並々と注がれているのだから、すぐに身の危険を覚える。そんなスープをちょっと太めの麺が吸っているからたまらない。初めて一口食べた瞬間に口の中に広がる塩分は、予想通りというか、まさかというか、食べる者の舌をしびれさせる。よくよく店内を見ると、薄めにもできるらしい。しかし、最初に訪れた者の100%がそんな表示を見ることなく、普通の濃さで注文するのだから、皆店に入ったことを後悔する。麺を食べても、大量に入っているしなちくを食べても同じこと。ましてや、スープなんて飲んだら舌のしびれは倍増するだけだ。結局初めて食べた人が救われるのが、どかーんと乗っているチャーシューだけであろう。こいつは脂が結構乗っていて、驚くほど柔らかい。これは絶品だ。最初に訪れた人は、チャーシューをたいらげ、あとは麺とほんのちょっとのしなちくを食べただけで、すべてのスープを残して退散するはずだ。
ところが不思議なこともあるもので、また間違えて(間違えることはないが)富山ブラックを食べてみるとそれ程嫌ではないことに気がつく。あの、しょっぱさの中にも旨味がジワーッと広がり始めのだ。いや、さらにもう一度食べてみると、その濃厚な味に得も言われぬ快感を覚え始めている。そう、食べれば食べるほどその美味しさの波に引きずり込まれるのだ。そうなるともうあなたは患者だ。ちょっと食べないとまた食べたくなってしまう存在に富山ブラックは進化してしまうのである。これは東京で言えば、麻薬が入っていると噂されていた「ラーメンニ郎」のような存在なのかもしれない。
富山のラーメン事情で、不思議なことは味噌ラーメンや塩ラーメンがあまり流行っていないことだ。これは、もしかすると富山ブラックを中心としたしょうゆラーメンを食べる習慣が強すぎて、それ以外のラーメンがあまり食べられていないのであろうか?ただ、最近では北海道の老舗「すみれ」で修行してきた方が開いた「つくし」が流行っているようなので、それも段々変わりつつあるようだが。
富山ブラックはユニークな富山の文化の一つと言っていい。東京事変の富山ライブの際、バンドのメンバーが富山ブラックを食べたと自己紹介で語っていた。つまり、これはある意味、富山ブラックは富山の顔だということであろう。食べれば食べるほど好きになる不思議な食べ物、富山ブラックは「富山な七不思議」のひとつである。
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